1. 戦場でメシを食う . . . 2013 / 佐藤 和孝
1980年代のアフガニスタン紛争、ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争やイラク戦争、そしてシリア内戦などを取材したジャーナリストが、両軍が命を賭けて戦う場所で「メシを食う」人たちの姿をレポートする。イラクで空腹を満たすためだけに食べた「カップ麺」や、カブールの武装勢力に取材フィルムや機材などを車ごと奪われた直後に食べた「葡萄」など、食材そのものは平凡で決して「戦場グルメ」を特筆したものではないが、砲弾の飛び交う中で死と隣り合わせという状況にも関わらず、平然と食事をする兵士たちや一般市民の強さ・健(したた)かさが描かれている。
2. 被差別の食卓 . . . 2005 / 上原 善広
「ソウルフード」とは魂の食事とか郷土料理という意味ではなく、アメリカを発祥とする黒人文化の料理。もっと言えば「奴隷料理」のことで、その背景には差別や貧困という悲しい歴史が潜んでいる。フライドチキンがアメリカのソウルフードの代表と呼ばれる理由は、かつて白人の農場主が残して捨てていた鶏の手羽先などを、黒人の使用人たちが油で揚げて食べていた事から。ブラジルのフェイジョアーダ(豚の内臓と豆の煮込み)、ブルガリアの「焼きハリネズミ」、牛肉を禁じるヒンドゥー教の国・ネパールの不可触民と食べた「スキヤキ」など、世界各地に根ざした「被差別料理」とそれらを食べる人々をレポートする。日本においても、牛や豚の屠畜場で働く人たちが作った内臓の揚げ物など、筆者自身が幼少の時から親しんだ「むらのソウルフード」が生々しく描かれており、被差別の民の歴史に深くえぐり込んだ一冊と言える。
3. 「高倉健」という生き方 . . . 2015 / 谷 充代
貿易商を夢見て福岡から上京し、ふとした事でスカウトされて映画スターへの道を歩んだ高倉健。女性フリーライターの谷充代が四半世紀に渡って密着取材を続け、「日本一カッコいい俳優」と共に過ごした時を紡ぐ。どんな時にも礼儀正しく、若手俳優やスタッフにも自分から挨拶をする、常に自分よりも周りの人を大切にするという素顔はもちろん、「晩年の夢は北海道でペンションを開くこと」「好きな花は都わすれ」というディープな想いまでを鏤(ちりば)めた一冊。カメラが回っていない時の「素の健さん」の魅力が詰まっていて、読めばますます健さんが好きになる。
4. 希望難民ご一行様 . . . 2010 / 古市憲寿・本田由紀
ピースボートとは、国際交流の船旅を運営するために1983年から始まったNGO(非政府組織)で、若者が中心となって大型客船による地球一周クルーズなどを実施している。奔放な発言で「炎上系コメンテータ」としての地位を確立しつつある若き社会学者・古市クンが東大の院生だった2008年、実際にピースボートに乗船した体験を修士論文にしたのだが、それを新書向けにアレンジして、さらに指導教官の本田センセイのコメントまでも付け加えたのがこの一冊。世界平和と夢を追い求めるはずのクルーズに「反戦の討論会」「憲法9条ダンス」などの薄気味悪いイベントが催されている事に「左翼洗脳の集会」の嗅いを感じ、若者に夢をあきらめさせる日本社会の縮図を見る。独特の軽妙な言い回しで綴ったこのレポートでは、ピースボートを「自分探しの幽霊船」と名付け、冷めた目線で参加者たちを観察する古市クン独特の描写がいちいち面白い。
5. 加害者家族 . . . 2010 / 鈴木 伸元
本書の著者はNHKで「クローズアップ現代」や「NHKスペシャル」などのドキュメンタリーを手掛ける報道番組ディレクター。強盗や殺人、あるいは交通事故などによる被害者家族はマスコミの取材に晒されるなどの二次被害で心の傷が癒える間もないが、その一方で「加害者家族」はそれ以上に凄惨な暮らしが強いられている。夫や息子が犯罪を犯したという大ショックに加え、嫌がらせの電話や落書き・さらにはネットによる罵詈雑言などで追い込まれた家族が自殺を選ぶケースも少なくない。自分の家族がいつ犯罪者になるかも知れないという実社会の中で、まさに他人事ではない実態を明らかにする。
6. 自閉症の子を持って . . . 2005 / 武部 隆
「ことばの発達の遅れ」・「 対人関係や社会性の困難さ」・「極度なこだわり行動」などを特徴とする自閉症とは先天的な脳の機能障害で、現在の日本においては100人に1人以上が相当すると推定されている。ハンディキャップと捉えられる一方で、数字や形などに天才的な記憶力を持っている場合も多く、その症状については1988年のアメリカ映画『レインマン』で広く世の中に知られるようになった。2歳を迎えた長男の「ことばの遅れ」を心配し、各方面の病院や児童相談所を回り検査を重ねた著者が、自閉症という診断を受けた時の余りにも大きな衝撃の場面から、それでも周囲に助けられ、何度も折れそうになる「自分自身」とも闘いながら家族と共に歩んだ足跡をたどる。 父親の目で息子を見守るまなざしの一方で、新聞記者という職業的な立場から学校や幼稚園・ 医療機関などの行政が抱える課題についても斬り込んでいく。時折り涙を誘う感動のドキュメントでもあるが、この著者が現在も背負っているであろう数多くの課題や、さらに重度な障害を負った多くの子供たちの親が今この瞬間も厳しい現実に立ち向かっている事を忘れてはならない。
7. ルポ 出所者の現実 . . . 2010 / 斎藤 充功 (みちのり)
日本では、罪を犯して刑務所で服役した人が出所する際に手にする「作業報奨金」という制度があるのだが、その金額は驚くほど安く、5万円以下が全体の97%という状況(2007年実績)。それでもまだ受け入れてくれる家族がいれば何とか社会復帰の道も残されていようが、そうでない場合はこの全財産で住まいを探し、仕事を見つけ、生活の基盤を確保しなければならない。「前科者」を雇ってくれる職場などそう多くはなく、所持金が底を突いてしまうと仕方なく再犯に走ってしまい、40%以上が「リピーター」となってしまうのが現実。犯罪者や刑務所・さらには近現代史といったテーマを中心に活躍するノンフィクション作家が、服役中・出所後にインタビューした百人以上からの告白をもとに、刑務所の現状と出所者を迎える社会の実態を浮き彫りにする。
8. 婚活したらすごかった . . . 2011 / 石神 賢介
身長160cmちょっとで体重は70kg近く、見た目もパッとせず性格も良くない(本人談)という著者は30代の時に結婚しているが1年ほどで離婚してバツイチに。そんな彼が40歳を過ぎてふと再婚したいという衝動に駆られて始めた婚活での体験をレポートする。ネットの婚活サイトに始まりお見合いパーティーや結婚相談所で出会った女性は100人を超えるが、初対面でいきなりホテルに誘ってきたドMな客室乗務員の「ミキちゃん」、2回目のデートで銀座の洋服店に連れて行かれていきなり5万円のカーディガンをおねだりするエステティシャンの「ミカさん」、フルーツ模様の下着をまといベッドの上でもアニメ声が抜けない声優の「ナナミさん」などなど、数々の猛者と闘いながら文字通りの「体当たり」レポートは面白すぎるが、結果として50歳を過ぎた今でも独身のご様子....
9. 文春砲〜スクープはいかにして生まれるのか ?. 2017/ 週刊文春編集部
日本で一番有名な純文学の新人賞・「芥川賞」を創設した格調高い出版社である文藝春秋の週刊誌部門として、1959年に創刊された週刊文春。「新聞・テレビが書かない記事を書く」という信念は年々エスカレートしており、政治家の汚職や芸能人の不倫などのスキャンダルを狙い撃ち、その人生を狂わす「文春砲」の恐ろしい破壊力は他の追随を許さない。本書は週刊文春の編集長と、記者の取材をサポートするデスク達が「スキャンダルの当たり年」と呼ばれた2016年の「ベッキー禁断愛」「甘利TPP担当大臣の賄賂疑惑」「舛添知事・公用車の私的利用」など一連のスクープについて、種蒔きから生育・収穫そして後始末までを克明に記した衝撃のドキュメンタリー(笑)。またこの本が文春ではなく角川から出されているというネタまでもが面白い。
10. ありがとう自衛隊 . . . 2011 / 佐藤 正久
防衛大学校から自衛隊に進み、2004年のイラク復興では支援隊長として現地で活躍した経験を持つ国会議員で、「ヒゲの隊長」として人気の佐藤氏が、2011年3月に起こった東日本大震災に際して決死の活躍で被災地を救った自衛隊員の奮戦記をレポートする。被災者の捜査・救出活動に加えて、瓦礫の除去による交通・物流ルートの確保、水や食料の支援、さらには次々と発見される「ご遺体」の収容や、避難所で途方に暮れる人々への「心のケア」など、休む間もなく不眠不休で活動を続ける自衛隊員のエネルギーの源は「国民の幸せのため」という自己犠牲の精神だった。