1. 本田宗一郎と「昭和の男」たち . . . 2004 / 片山 修
1954年、ヒット商品だったバイクの「ドリーム号」の製造不良によって倒産の危機に陥ったホンダ。しかしそんな騒動の中、社長の本田宗一郎は世界屈指のオートバイレースである「英国マン島TTレース」への出場を宣言する。ホンダが世界で生き残るには、モータースポーツで勝つこと以外に道は無いと考えての英断だったが、業界からは「身の程知らず」と物笑いの種に。本書はそこから7年後の1961年に、まさかの「完全優勝」を果たすまでのホンダマンたちの戦いを経済ジャーナリストの片山修が描いたもの。レース監督で、後に宗一郎の指名により2代目社長となる河島喜好を始めとする9人の男たちが、宣言から5年後の1959年5月、盛大な見送りを受けて羽田空港を飛び立ち念願の「TTレース」に初参戦する。そこでは惨敗を喫するものの、想像を絶する技術革新により、何とその僅か2年後に優勝してしまう。これはもうホンダという一企業だけではなく、日本のモノづくりの原点を国民に広く呼び起こさせる、感動のストーリー。
2. 生きる哲学 トヨタ生産方式 . . . 2010 / 岩月 伸郎
「トヨタ生産方式の生みの親」と呼ばれた大野耐一氏の薫陶を受け、自らもトヨタの役員から子会社・デンソーの副社長となった著者による「生きる哲学」。企業の生産部門で働く人なら必ず知っている「かんばん方式」や「ジャストインタイム」の生い立ちからその知恵を、エピソードや思い出話を交えて紹介する内容は興味深い。ただ徹底的なムダの排除とコストダウンを追求した結果、何千社もある下請けに無理な要求を突きつけ、朝一番の納入を指定された仕入先のトラックがトヨタの工場に続く道路に行列をなし、公共の道路を「倉庫代わり」に使った「罪」に関しては全く触れられていない、というか罪の意識が無い。トヨタは毎年多額の法人税と広告費を払っているから「それでいいのだ」という事なのか? う〜ん...
3. さよなら!僕らのソニー . . . 2011 / 立石 泰則
1962年、アメリカ・ニューヨークの一等地である五番街に「SONY」のショールームが開設された。終戦からそんなに経っておらず、まだまだ反日感情の強いアメリカで、その玄関にたなびく日章旗(日の丸)に当地の日本人は勇気付けられたが、それは社長の盛田氏の「悲願」であると同時に「覚悟」でもあった。1980年代の「ウォークマン」や家庭用ビデオカメラ「ハンディカム」など、独特のアイデアと技術力で世界を相手に急成長し、あのスティーブ・ジョブズ氏までが憧れた“SONY”の神話が、その後の経営判断によって崩壊していった経緯をたどる。本業であった「モノづくり」からコンテンツビジネスに、目先の利益を追い求めてハードからソフトに方向転換した「采配ミス」が、日本を代表する企業を苦しめたと分析するのはジャーナリストでノンフィクション作家の立石氏。
4. 松下幸之助の憂鬱 . . . 2014 / 立石 泰則
「経営の神様」と呼ばれた実業家・松下幸之助を四半世紀に渡って追いかけた著者が、その創業者が66歳で引退した後における同社の迷走について考察する。実父の米相場での失敗によって凋落した和歌山の地主「松下家」の再興を目指す中で親兄弟と早くに死に別れ、結婚後も待望の長男が病気により夭逝するなど、家族愛に恵まれなかった幸之助氏は「家」に執着するあまり、その後継に娘婿を据えて会長に退く。しかし2000年に松下家による世襲は終わり、幸之助氏の夢は潰えた。書店によく出回っている「礼賛本」ではなく、カリスマ創業者の遺した「負の遺産」や、そのDNAを引き継げなかった後継者たちの失政を分析した一冊で、読後感は重い。
5. クロネコヤマト 「感動する企業」の秘密 . . . 2013 / 石島 洋一
1919年(大正8)に創業された「大和運輸」が、その代名詞とも呼ばれる宅急便を日本で始めたのが1976年。個人向け小口貨物という当時の社長の提案に全役員が反対し、スタート初日はたったの「2個」だった荷物が、やがて20億個に迫るほどにまで成長した(2016年度実績)。本書は2011年の東日本大震災に際して、迅速かつ最高の判断によって被災地の物流を救ったヤマト社員たちの「神対応」を皮切りに、社員全員が時代を超えて世のため・人のために尽くそうという「ヤマト魂」を育てた企業の秘密にスポットを当てる。著者の石島氏の本業は会計士で、『決算書がおもしろいほど分かる本』というベストセラーを書いているのだが、ヤマトホールディングスの社長・会長を務めた瀬戸薫氏と高校時代からの親友という事情からなのか、100%の「ヤマト礼賛本」となっていて辛口の意見が無いのが少し物足りないが、「感動する」のは間違いない一冊。
6. 安売り王一代 私の「ドン・キホーテ」人生 . . . 2015 / 安田 隆夫
1978年に東京の杉並にオープンした18坪の雑貨店を、今やイオンやユニクロと肩を並べるほどの大企業に育て上げた「流通界の風雲児」・安田氏による一代記。少量多品種の商品を安く仕入れ、デフレ経済のもとで「低価格」「圧縮陳列」「深夜営業」を武器に急成長した同社だが、その設立から現在に至る経緯は順風満帆とは真逆で、失敗と苦難の連続であった。経営者である自分の想いが伝わらない従業員たちとの葛藤、「住民団体」と自称する怪しい活動家による営業妨害や、時代に逆行して理不尽な規制をする役所との闘い、さらには万引き犯が起こした放火事件による従業員の「殉職」...。逆境に遭うたびに常識とは反対の「逆張り」を仕掛け、不可能を可能にしてきた男は2015年に引退し、「我が子同然」と公言するドンキとその社員を見守り続けている。
7. 日本企業にいま大切なこと . . . 2011 / 野中郁次郎・遠藤功
日本の産業界における「知識経営」の生みの親と呼ばれる一橋大学名誉教授の野中氏と、同じく経営学者で欧州最大の経営戦略コンサルティング会社であるローランド・ベルガー日本法人の会長を務める遠藤氏という豪華キャストのお二人による共著。日本がバブル後の「失われた20年」で低迷する一方で台頭したのは「人よりもカネ、情緒より合理性」を優先するアメリカ型の新自由主義経済であり、アマゾン・グーグル・アップルなどのグローバル企業が世界を牛耳るまでになった。 だが今の日本企業に必要なのは、そのようなアメリカ方式に追随する事ではなく、逆に明治の昔からこの国に根ざした「情緒的な現実思考」を復活させる事にあると主張する。2011年の大震災に際して民主党政権がお粗末な対応を続ける中で、「共同体の善」を優先した誇り高き国民の「現場力」が素早く反応し、日本の国力が遺憾なく発揮されたと考察する。野中センセイが高名な学者らしく、コモングッド(普遍的な善)とかフロネシス(実践的な知)という取っ付きにくいカタカナ語を連発するのを受けて、遠藤氏がそれをフォローしつつ分かりやすく、しかも日本人の琴線に訴えるように解説してくれるという絶妙のコンビネーションが読み手に感動を与える傑作。
8. あの会社はこうして潰れた . . . 2017 / 帝国データバンク情報部・藤森 徹
リーマンショックが起こった2008年における日本企業の倒産は1万5千を超えていたが、翌年に中小企業の借金返済を猶予する「金融円滑化法」が施行された事によって倒産件数は年々減少に向かい、2017年は8,400件まで下がった。とは言え、1年に8千社以上の会社が倒産しており、今も1日あたり20社以上が毎日潰れている事になる。本書は国内最大手の信用調査会社である帝国データバンクで25年間に渡り企業取材を行った著者が目にした「倒産の現実」というもので、創業400年を誇る老舗菓子店、77億円を集めた投資ファンド、名医が経営する病院などが倒産に至った経緯を究明する。時代の変化に対応出来なかった経営陣の判断ミスは元より、本業から逸脱した無謀な投資、創業家による争いや会社の私物化、さらには食品偽装や不正・詐欺など、「倒産の裏側」における数々のドラマが描かれている。
9. 日本企業は何で食っていくのか . . . 2013 / 伊丹 敬之 (いたみ・ひろゆき)
2008年のリーマンショックによる混乱に追い打ちを掛けるように発生した2011年の東日本大震災がもたらした日本の危機的な状況を、第二次大戦・バブル崩壊に続く「第3の敗戦」と位置付けるのは、一橋大学で名誉教授を務めた経営学者の伊丹氏。1971年の「ニクソンショック」による経済危機からちょうど40年、経済成長のみならず財政・貿易収支もマイナスという状況に加え、震災による壊滅的な被害と電力危機はまさに「国難」と呼ぶべきもの。2012年の政権交代を契機に好転しつつある日本経済だが、総人口の半分を占める6千万人にも上る労働者が今後「何で食っていくべきか」という問題への突破口を明示する。
10. みんなが知らない超優良企業 . . . 2016 / 田宮 寛之
地球に優しい未来のクルマ・燃料電池車の登場で脚光を浴びる「水素ビジネス」で日本を率いるのはカセットコンロでお馴染みの岩谷産業。世界1位の産業用ロボット市場をリードするファナックと安川電機。戦国時代の創業だが430年を経た今でも時代の流れと共に成長を続ける松井建設。2012年にノーベル生理学・医学賞を受賞した山中教授率いる京都大学と共同で世界のiPS細胞研究をリードする武田薬品。さらには漁船に搭載する「全自動イカ釣り機」で世界シェア7割を誇る「東和電機」。世界の農家が育てるブロッコリーの種の6割を生産する「サカタのタネ」。事もあろうにカレーの本場インドに出店して殴り込みをかける日本一のカレー専門チェーン「CoCo壱番屋」。日本を敵視する彼のC国やK国と違い、世界に誇る人材と技術を有する企業が我がニッポンには溢れ返ってている!... 経済ジャーナリストが就職活動中の若者や投資家、そして全ての日本人に向けて呼びかける日本企業の魅力の数々が読者を唸らせる。