新書のすゝめ 〜 匠の技・プロの仕事

1. 至福のすし . . . 2003 / 山本 益博

至福のすし

1980年代のグルメブームで一躍有名になった料理評論家・山本益博による銀座の銘店「すきやばし次郎」の密着取材。店主の本名は“小野二郎”なのだが、「寿司屋で『二郎』じゃ、何となく間が抜けている」という事で屋号を「次郎」にしたという話、またその二郎さんご自身が「酢のもの嫌い」という面白ネタには笑える。「世界一多くの星を持つシェフ」として名を馳せた料理人、ジョエル・ロブション氏が来店してその寿司を堪能するシーンなど迫力ある描写はお見事だが、有名店におもねる山本氏の姿勢には賛否両論。3年間で2千回の食べ歩きをして「料理評論家」という職業を創出した人だけに、手放しの礼賛本ではなく辛口のコメントも欲しかったかな〜.. と思わせる一冊。


2. ホテルオークラ 総料理長の美食帖 . . . 2012 / 根岸 規雄

ホテルオークラ

日本が世界に誇る「御三家ホテル」の1つ、ホテルオークラで第4代・総料理長(2001-2009)を務めた根岸シェフによる回顧録。世界のVIPをもてなす一流ホテルの珠玉のサービスに始まり、本場のフランスを凌ぐ勢いの日本フレンチ草創期のエピソードなど、究極の「メニュー」が揃った一品。 「西洋の模倣はいらない」と意気込んだ創業者・大倉喜七郎の意向を反映した純日本式・「美術館ホテル」には、外資系ホテルチェーンには無い魅力が溢れていると言われるが、その理由が本書を読むことでよく分かる。


3. サービスの天才たち . . . 2003 / 野地 秩嘉 (のじ・つねよし)

サービスの天才たち

有名人が北海道を訪れると必ず指名すると言われるタクシー乗務員、日本一のキャデイを育てる千葉県のゴルフ場、肩のコリだけでなくお客の心まで揉みほぐす「ゴッドハンド」のマッサージ師、新しいコンセプトの高齢者マンション「サンシティ」のレストラン運営を手掛けた敏腕マネージャー... 人物ルポルタージュやビジネス・食・芸術など幅広い分野で執筆を続けるノンフィクション作家の野地秩嘉が、達人たちのプロフェッショナルな接客術を追跡する。お客の心を虜にするサービスの真髄とは何かを示した教科書。


4. 日本一の秘書 〜 サービスの達人たち . . . 2011 / 野地 秩嘉

サービスの達人たち

横浜の老舗ホテルで4万人のお客の顔を覚える名物ドアマン、犯人の似顔絵を見事に描き上げる「偉才」の刑事、シミ抜きクリーニングの名人、57年間まごころを運び続けた富山の薬売り、秋田の子どもたちに絶大な人気のローカルヒーロー「超神ネイガー」... 決して有名人でも大金持ちでもないが、自分の仕事に誇りを持って働く真のプロフェッショナルを追いかけた味わい深い一冊。達人たちの歩んできた人生がドラマチックに描かれており、まさに「人に歴史あり」を実感させてくれる。ちなみにタイトルにある「日本一の秘書」とは、日本最大のカレーチェーン・CoCo壱番屋で20年に渡って社長3代の秘書を務めた中村由美さん。 


5. ジェームズ・ボンド 仕事の流儀 . . . 2011 / 田窪 寿保 (としやす)

ジェームズ・ボンド 仕事の流儀

東京の人口が1千万人を超え、世界初の「1千万都市」となった1962年に公開され、その後半世紀以上も続いている人気アクション映画『007シリーズ』の主役、ジェームズ・ボンド。 英国情報部のスパイとして巨悪と戦いながら行く先々で美女と恋に落ち、絶体絶命のピンチにも洒落たジョークで敵を皮肉るスタイルはシリーズの定番だが、そこにはボンド自身が守り続ける「仕事の流儀」が詰まっている。女王陛下のために国を守ることを誓った「公務員」の立場で、任務には忠実だが、「ドン・ペリニョンは3.5℃以上で飲んではいけない」「完璧なゆで卵の茹で時間は3分20秒ぴったり」と、一寸たりともポリシーを曲げない自己へのこだわりは今のビジネスマンに必要な「スピリッツ」であると提言する。英ヴァージン航空が日本に就航した1989年に新卒として入社し、現在も日本とイギリスでビジネスを展開する著者の、良い意味で「英国かぶれ」した目線による「一流の仕事術」を論じた一冊。


6. 感動をつくれますか? . . . 2006 / 久石 譲

感動をつくれますか

「風の谷のナウシカ」「千と千尋の神隠し」「となりのトトロ」「風立ちぬ」...と、29年間に渡ってジブリ音楽を手掛けた作曲家の久石譲が語る「音楽の感動」。数々のエピソードを交えながら、「感性は経験の積み重ね」「失敗の原因は自分の内にある」と語る作者の仕事に対するストイックな姿勢が伝わってくる。ただ欲を言えば、文章が作曲ほど上手ではないのか、タイトルの「感動のつくり方」に対する答えが今ひとつ明確でないのが原因のようで、アマゾンの読者レビューによる評価は星5つから1つとバラバラで賛否両論。ちなみに久石譲(ひさいし・じょう)の舞台ネームは、史上最も売れたアルバム「スリラー」をマイケル・ジャクソンと共に世に送ったジャズ界の巨匠「クインシー・ジョーンズ」の名前をアレンジしたもの。おやじギャグである。


7. 接待の一流 〜 おもてなしは技術です . . . 2007 / 田崎 眞也

接待の一流

1995年の「世界最優秀ソムリエコンクール」において日本人として初優勝を遂げ、現在は実業家・料理評論家として活躍する田崎眞也が明かす「おもてなしの技術」。もてなしとは無償の「ホスピタリティ」であり、有償の「サービス」とは根本的に別物という考えを基本として、日本社会のあちこちで行われている「おもてなし」の正しい方法を、会社関係の「接待」と男女の「デート」という2つの場面に分けてレクチャーする。ゲストをもてなす側の「ホスト」であるべき人が、ゲストの立場や気持ちを考えずに身勝手な接待やデートを進める「もてなしベタ」の事例を挙げながら、ゲストから「ありがとう、楽しかった」とお礼を言われるような心からのおもてなしの「技術」を披露する。ちなみに田崎氏のお好みはワインではなく、大の「レモンサワー派」らしい。


8. プロフェッショナルの働き方 . . . 2012 / 高橋 俊介

プロフェッショナルの働き方

年功序列・終身雇用といった「昭和的価値観」が崩壊し、想定外の変化が当たり前のように起こる現代において「やりがいのある仕事」を続けるには何が必要なのか?人材育成コンサルタントの高橋氏が、組織に埋もれずに「光る人材」として活躍するためのノウハウを伝授する。第1部では企業を取り巻く環境の変化による「求められる働き方」を論じ、第2部ではさまざまな事例を紹介しながら「プロフェッショナル」になるための手法を明かす。組織の中で働く人にも、起業する人にも通じる「仕事に対する心構え」が説かれた一冊。


9. リッツ・カールトン 至高のホスピタリティ . . . 2013 / 高野 登

リッツカールトン至高

出身地である長野県の高校を卒業後、日本初のホテルマン養成学校として1971年に設立されたプリンスホテルスクール(現・日本ホテルスクール)の第一期生として入学、米国に渡ってヒルトン・フェアモントなどの高級ホテルに勤めた後の1994年にザ・リッツ・カールトン日本支社長として帰国した高野氏による「一流のおもてなし」。35年に及ぶホテル勤務の経験から、最高のサービスとは設備でもマニュアルでもなく「人の価値」にあると結論し、楽しく働くにはまず「心の力を鍛えること」と説く。20年も在籍したザ・リッツ・カールトンが持つ「おもてなしの極意」の紹介もさることながら、人の心を動かす珠玉のエピソードも鏤(ちりば)められており、その文章までにも「ホスピタリティー」が溢れている。


10. たくらむ技術 . . . 2012 / 加地 倫三 (かぢ・りんぞう)

たくらむ技術

上智大の外国語学部(何語かは不明)からテレビの世界に入り、バラエティ番組『ロンドンハーツ』や『アメトーーク!』などをプロデュースした著者による「面白さの追求」。企画はゆるい会話から・否定の意見が有難い・視野が狭くてはダメ... などなど、一般の会社でも通用する教訓を大切にする著者のモットーは、「いい大人が集まって、下らない事を一生懸命やる」。分かりやすくて面白い番組の「流れ」を重視しながら、2秒半ごとのカット切替え、テロップや効果音の選別やタイミング、さらには登場人物の肩書きなどのクレジットや不適切表現のチェックなどの細部にも注意して1本の番組を制作する過程は、まさにプロの職人芸と呼ぶに相応しい。「テレビが面白くなくなった」「ネットの方が面白い」などの批判が多い昨今、「テレビの時代はもう終わり」とまで囁かれる中で、テレビの仕事を1人でも多くの人に知ってもらいたいという熱い想いが伝わってくる。