1. 教育破綻が日本を滅ぼす!. . . 2008 / 尾木 直樹
中学・高校そして大学で教師生活を45年務めた「尾木ママ」による日本教育論。「教育委員会バッシングが目的ではありません」と前置きしておきながら、中身が強烈な教委批判なのには笑える。緊急課題とされている、いじめ被害の子ども・心が壊れる教師たちなどの現場をよそに、役所仕事と上司へのゴマスリに明け暮れて「何もしない」教委の非人間性を糾弾する。子どもを育てるための「学校」が完全に教委の下部組織となって互いに反目し合っている現実に異議を唱え、さらには文部科学省の体たらくも非難する。これから教師を目指す人にはショッキングな内容だが、ならば一層のこと必読の書。
2. 教師格差 〜 ダメ教師はなぜ増えるのか . . . 2007 / 尾木 直樹
かつての日本では「聖職」とまで呼ばれ、人々の尊敬を集めた教師が危機を迎えている。本来は生徒の立場でモノを考えるべき教師たちが、教育委員会との摩擦・いじめによる自殺・モンスターペアレント・教師倫理などの様々な問題によって精神的に追い詰められ、心の病を発症する事態が激増している。「成果主義」や「目標管理」のような一般企業の悪しき制度が学校に持ち込まれた事で教師のサラリーマン化が進み、それに馴染めずに生徒との交流を遮断する「ダメ教師」や、暴力やセクハラに走る「問題教師」が崩壊を招いていると断じる。前項の『教育破綻が日本を滅ぼす!』と併せて読むと、政府の進める教育改革がむしろ学校と教師に強烈なプレッシャーとなっている事がよく分かる。 この現状には尾木ママも異を唱えるものの、根本的な改善が出来ないのが「教育評論家」としての限界なのかも。
3. 名ばかり大学生 〜 日本型教育制度の終焉 . . . 2009 / 河本 敏浩
「いつやるか?今でしょ!」で有名な全国チェーンの予備校・「東進ハイスクール」の講師を19年も務め、現在は社団法人全国学力研究会の理事長であり、また私立医学部向け予備校の代表を兼ねる傍らで『医学部バブル・最高倍率30倍の裏側』という著書を出したという、大変にお忙しい河本センセイの本。学力が低く、勉強する気もない「名ばかり大学生」を大量に入学させた上に、全く勉強させないまま社会に送り出すという世界にも類を見ない日本の大学システムの問題点についてあれこれと意見する。戦後60年以上の長きに渡った日本型教育システムが終焉に向かいつつある中で、今後どのような教育制度が築かれていくのかについて言及した一冊。
4. 下流大学が日本を滅ぼす!. . . 2008 / 三浦 展 (あつし)
日本では少子化が進む中、2007年には大学・短大の入学定員と受験者数比がついに1:1となり「大学全入時代」と呼ばれるようになって久しい。人気校ではなく学生の確保に苦しむ大学の多くは合格ライン以下の受験生まで入学させ、4年間ロクに勉強もさせず社会に送り出している状況だが、これを「不要な高速道路をばんばん造って国民の借金を増やす悪名高き道路行政と同じ」と糾弾するのは、マーケティング・アナリスト(消費社会研究家)で、ベストセラー本・『下流社会』(2005)でも知られる三浦氏。学力が低いだけでなく、「ひよわで、甘えん坊で、自己愛の強い」学生たちの実態を探り、そんな学生を生み出す入試・教育制度にメスを入れ、「まともな人間」を創り上げるための処方箋を示す。
5. アホ大学のバカ学生 . . . 2012 / 石渡嶺司・山内太地
『最高学府はバカだらけ』(2007)で定員割れに悩む「崖っぷち大学」の生き残り戦略を描いた自称・大学ジャーナリストの【いしわたり・れいじ】氏と、日本国内で700を超える全ての大学を訪問取材した大学研究家の【やまうち・たいじ】氏による共著。校名の変更によって逆に人気が落ちて定員割れを招いた大学、学部名をカタカナ化して改革したつもりになっている大学、広報が下手で受験生が集まらない大学などの迷走を指摘する一方で、そんな大学生活で勉強も成長もせずに就活で苦労する学生たちの実情を追跡する。タイトルはちょっと強烈だが、昨今の大学政策の「アホさ」を分析し、迷える大学生に充実した学生生活と幸せな就職を望む気持ちに溢れている。
6. 2020年からの教師問題 . . . 2017 / 石川 一郎
1990年に始まった大学入試センター試験は2019年度(2020年1月)の実施を最後に廃止され、翌年度から「大学入学共通テスト」に切り替わる。これは単なる入試制度の変更ではなく、大学教育と高校教育・そしてその接点である入試という「三位一体」による大々的な教育改革という位置付けだ。21世紀に入って急速に進む経済のグローバル化は、AIの普及と相まって今後は予測出来ない状況、つまり大学を出ても食っていけない事態を招くという危機感を持った日本政府が、数式や年号などの暗記物に象徴される「知識の習得」から、学んだ知識を使って自分の頭で考える「知識の活用」へと大転換し、ヒト・モノ・カネ・さらには情報が国境を越えて交錯するグローバル社会に通用する人材の育成を目指すもの。本書は戦後初とも言える日本の教育改革において、その鍵を握る現場の高校教師がいかに改革を実行すべきなのかを、私立の中高一貫校の校長を務めた著者が期待と不安を織り交ぜて提言する。
7. 先生はえらい . . . 2005 / 内田 樹 (たつる)
哲学者・思想家・エッセイスト・翻訳家・フランス文学研究者.....と多くの肩書を持つマルチ学者で、140年以上の歴史を誇る神戸女学院大学の名誉教授である内田樹による教育論。ただし本人は教育論ではなく「師弟論」であるとしている。教育崩壊や教師のモラルが問題となる昨今において先生の素晴しさを高らかに唱えてエールを送る本なのかと思えば、教師という職業の苦労や先生という「聖職」の尊さには全く触れもせずに、ひたすら「先生はえらくない」と唱えて、むしろ先生より生徒の側が自主的に選ぶ「学びの主体性」を推奨する。1960年代の安保闘争を肌で感じていた内田少年は「革命が起こる! 勉強どころじゃない!」と高校を退学して大検で東大に入学。東京都立大で研究者としての道を歩むが結婚に失敗しバツイチに。シングルファザーとなって東京を離れ子連れで神戸女学院大に奉職、そして定年を前に20歳も年下の教え子と再婚という決して「えらくない」経歴の著者が、今の教育体制で自信を喪失しつつある先生たちを元気付けてくれる一冊。
8. 現代語訳 学問のすすめ . . . 2009 / 齋藤 孝・訳
幕末から明治にかけて活躍した武士出身の思想家で、今では紙幣に描かれるほど立派な人物とされている福澤諭吉。欧米での見聞に基づいて西洋の政治や経済・文明などを紹介したその著書・『西洋事情』に続いて放った国民的ベストセラーが『学問のすゝめ』である。当時の日本国民の能力を底上げし、内政では国を豊かに・外交では欧米の列強に対峙せよと声高に啓蒙する、今風に言えば「エッジの立った」文章を教育学者の齋藤孝が現代の人々に読みやすい口語にアレンジしたもので、今の日本人の心に響く内容。ちなみに有名な冒頭の句、「天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らずと云へり」は、自らが「云へり」と記しているように福澤のオリジナルではなく、その100年以上前に起こったアメリカの独立宣言からの引用である。また本文で福澤は「実際は人の世は平等ではなく、その差は学問によって生まれる」と人の世の「不平等」を肯定しており、学問を成してちゃっかり一万円札に格上げされたご本人が、身を以てそれを範している。
9. ルポ 塾歴社会 . . . 2016 / おおたとしまさ
日本全国にある学習塾の数は5万件を超えるが、その中でも超エリート養成校として名高いのが「サピックス小学部」と「鉄緑会」の2つ。サピックス小学部とは、駿台・河合塾と並んで日本の三大予備校と呼ばれる代々木ゼミナールが1989年に設立した中学受験塾で、そのキャッチコピーは「超難関校への登竜門」。一方の鉄緑会とは、東大・京大を始めとする難関校や国公立医学部に多数の合格者を出すベネッセ傘下の予備校であり、女優の菊川玲ちゃんもここのOGである。東京の名門・麻布中高を卒業して東京外大に合格するも、なぜか中退して上智で英語を学び直して、リクルートを経て教員免許まで取得しながら教育・育児に携わる「異色のジャーナリスト」が、両校が躍進した理由とその秘密を解明する一方で、学歴ならぬ「塾歴」社会がもたらす光と闇を暴く。
10. ドキュメント高校中退 . . . 2009 / 青砥 恭 (あおと・やすし)
小学校低学年レベルの学力のまま放置され、掛け算の「九九」が言えないどころか数字の1から100までが数えられない、あるいはアルファベットすら書けず英語を学ぶなど夢物語の高校生...。全国の高校中退数は2001年に10万人を切り、最近では年間5万人台で推移しているものの、また不登校者もほぼ同数の規模となっている。「勉強が分からない」というだけでなく、「経済的事情」・「親による育児放棄」・「学校内での人間関係」などその理由は広範囲に及んでおり、彼らは「高校中退」の肩書きで社会の底辺を生きて行くことになる。元高校教諭で、若者の貧困や自立支援問題を研究する著者が、渦中の高校生たちと向き合いその実態をレポート。高校生の貧困は単なる教育問題に留まらないとし、社会福祉による支援の必要性を訴える。