1. そして日本経済が世界の希望になる . . . 2013 / ポール・クルーグマン
2008年にノーベル賞を受賞したアメリカの経済学者で、トランプ大統領をやたらと批判する辛口のコラムニストでもある著者へのインタビューをまとめた一冊。日本が「失われた20年」によるデフレ不況から脱するための方策として、量的緩和やゼロ金利政策の継続といういわゆる「リフレ派」的な経済政策を展開する。ただ気になるのは多くの意見がアメリカ目線で、日本の復活を真剣に望んでいるようでもなく、古くは戦後のGHQによる金融引き締め政策の「ドッジライン」、最近ではFRB議長だったグリーンスパンによる「サブプライムローン」など、アメリカの学者の意見はさほどアテにならないという事を思い出させてもくれる。本書では発足後間もない安倍政権とアベノミクスを絶賛しているが、それから何年たっても当初目標のインフレ率2パーセントとかが達成されていない最近では、ご本人もちょっと心変わりしている様子。
2. 低欲望社会 〜「大志なき時代」の新・国富論 . . . 2016 / 大前 研一
全米屈指のエリート校・MIT(マサチューセッツ工科大学)の博士号を持ち、数多くの起業家を輩出する名門コンサルティングの「マッキンゼー」日本支社長を務め、現在は自らが立ち上げた企業「ビジネス・ブレークスルー」の社長として経営指導や人材育成を行う大前センセイ。肩書きも顔も、そして発言もいちいち「エラソー」なのが魅力である。アベノミクスによって期待された日本の景気が一向に良くならない原因が、戦後の成長期のように給料も希望も右肩上がりだった時代とは違い、今はもう人々が豊かさを追い求めない「低欲望社会」となっている事にあると指摘する。特に20〜40歳の若い世代が、将来に対する不安と失望から「結婚しない」「子供つくらない」「家は持たない」ことを選択する傾向にある日本を「皆が等しく貧乏になっていく国」と危険視する。世界的な経営コンサルタントであり、「ビジネス界のゴッドじいちゃん」と呼ばれるセンセイが、今の日本を復活させる処方箋として提言する「日本のための心理経済学」とも呼ぶべき一冊。本書は2015年に単行本(\1,620)を出版しながら、その翌年にすかさずこの新書版(\864)まで出していて押し付けがましいのが笑える。他にもいろいろ本を出されている大前センセイだが、どれもこれも、タイトルから帯から写真から、何とも「エラソー」である。
3. 2020年 マンション大崩壊 . . . 2015 / 牧野 知弘
東大の経済学部から日米の名門金融グループを経て、業界最大手の三井不動産へと転身した「インテリ系」不動産コンサルタントである著者が、東京オリンピック後のマンション動向を予測。「大崩壊」の予兆として危惧されている「地方都市のスラム化」や、「中国人による占拠」などが実際に起こる可能性は低いと思われるが、2019年をピークに日本の世帯数が減少に転じて空き家が増えるという「2019年問題」や、今なお林立し続ける「タワーマンション」に潜む危険性などを分かりやすく解説しており、業界人にとっては必読の書と言える。いたずらに購入を煽る業界紙とは一線を画し、いまマンションを持っている人・これから購入を考えている人が今後の判断について冷静に考えるためのヒントとなる一冊。
4. 2040年 全ビジネスモデル消滅 . . . 2016 / 牧野 知弘
前項の『2020年 マンション大崩壊』を出版した年に、オフィスやホテルなどあらゆる不動産を対象とするコンサルタント会社・「オラガ総研」を設立した牧野氏が、2040年の日本を予測する。アメリカ発祥ながら日本の文化に深く根付いたマクドナルドとディズニーランドという2つのビジネスモデルを比較して、時代の流れに対応できずに凋落してしまった前者と、常にブランド価値を上げながら成長を続ける後者に「量的充足」から「質的充足」へ移行しつつある世界の趨勢を見い出す。生産年齢人口(15〜64歳)がピークを迎えた1995年以降の日本はもう20年以上も低成長が続いており、少子化と格差拡大によって近い将来の2040年頃には大きな試練を迎えると予測する。 タイトルの『全ビジネスモデル』には多少言い過ぎ感もあるが、東京オリンピック後の日本に迫りくる危機は待ったなしの所まで近づいているのかも。
5. 日本経済論の罪と罰 . . . 2013 / 小峰 隆夫
リーマンショック以降の日本で何かと騒がれる「資本主義の終焉」や、経済以外の事象を重視せよと謳う「脱成長論」などの論調に対して異議を申し立てるのは、経企庁・国交省で長く日本経済を観察し続けてきたエコノミストの小峰氏。「構造改革が格差社会を生んだ」・「少子高齢化が社会を破綻させる」などのような「枕詞」で日本経済の危機を煽るマスコミに異を唱え、あたかも真実であるかのように引用されるの多くの「常識」を誤りと喝破する。国民の幸福はまず経済成長からとの信念を貫き、特に2011年の東日本大震災後を契機に広がった「経済重視から生活幸福度へ」などのような風潮に対して反論する。長引くデフレ・低所得・失業こそが国民の不幸に横たわる根源であるとし、経済成長を基本とした日本の取るべき政策について提言する。
6. 平成経済事件の怪物たち . . . 2013 / 森 功
「週刊新潮」編集部を経てノンフィクション作家となり、銀行や警察における「闇社会」を暴き続ける森功が、平成の世に暗躍した「15人の怪物」を通して浮き彫りにした日本の闇。人材派遣のリクルートを創業し、時代の寵児と賞賛された江副浩正、野村證券を日本一に導いた証券業界のドン・田淵節也、消費者金融の最大手「武富士」の創業者・武井保雄、大阪の料亭の女将でありながら数千億円もの投資で「北浜の天才相場師」と呼ばれた尾上縫、そして通産官僚から転身し「村上ファンド」を立ち上げた村上世彰...。一時は名実ともに大成功を収めながら、バブル景気に酔いしれた挙句の果てに転落した実業家や政治家たちの言動を振り返り、平成という1つの時代に起こった事件の数々を検証する。
7. 新自由主義の復権 . . . 2011 / 八代 尚宏
新自由主義とは国による公共サービスや福祉を減らし、民営化と規制緩和で自由競争を広めようという考え方。1980年代の日米英はこれを経済政策に取り入れ、アメリカは大幅減税と規制緩和を謳うレーガノミクス、イギリスは金融引き締めと規制緩和によるサッチャリズムを断行。日本では中曽根政権による行政の民営化が大きく進み、NTT(日本電電公社)やJR(国鉄)などが発足した。しかし2000年代から始まった「構造改革」は社会に格差を広げ、行き過ぎた自由主義が2008年のリーマンショックを招いたなどと、最近では多くの批判に晒されている。本書は労働格差の是正に取り組む経済学者の八代氏が、このところ何かと悪し様に言われる新自由主義の功罪を分析し、社会保障改革や新しい産業の提案など、停滞が続いている日本経済を再生させるためのビジョンを示す。
8. 日経新聞の真実 . . . 2013 / 田村 秀男
早稲田の政経から日経新聞に入社して、東京本社・ワシントン特派員・香港支局長などを務める傍らで母校の講師も兼務、現在は産経新聞の論説委員として切れ味鋭い論評を展開する田村氏が憂う「この国のジャーナリズム」。巨額の財政赤字と貿易赤字に窮するアメリカの救済策として先進5ヵ国で行われた1985年の「プラザ合意」によって急激に進んだ円高・バブル景気・その崩壊後の「失われた20年」における日本凋落の原因を、新聞を始めとするメディアによるミスリードと断罪する。デフレからの脱却とか震災復興の財源確保とかいう美辞麗句で国民に増税を迫る財務官僚や、金融政策の誤りを正当化して屁理屈ばかりを並べる日銀官僚を批難し、それらを取材して記事にする新聞記者の不勉強ぶりや、官僚におもねる御用学者の体たらくを糾弾する。世間一般には中立的と思われている日経新聞に対して、OBの立場から「国家権力をメディアは批判をもって監視せよ」と叱咤し、日本再生への熱い想いを訴える。
9. 中流崩壊 . . . 2015 / 榊原 英資 (えいすけ)
阪神・淡路大震災の起こった1995年、巨額の貿易黒字を背景に起こった未曽有の超円高に際し、アメリカと協調した為替介入に踏み切って危機を脱したその手腕から「ミスター円」と呼ばれた元・財務官の榊原氏。2020年の東京オリンピック以降の日本において、若者の失業や非正規社員の急増によって格差がさらに広がり、「中流」と呼ばれる層が崩壊して行く社会の危険性を読み解く。アベノミクスの恩恵を受けていない大多数の「中流」サラリーマンがこれから直面する「ゼロ成長」社会において、日本が進むべき道を指し示す。
10. 気づいたら先頭に立っていた日本経済 . . . 2016 / 吉崎 達彦
国の経済成長をGDP(国内総生産)のみで評価する考え方に異を唱え、「おカネで測れないもの」、つまり趣味・娯楽・スポーツなど、人々に喜びを与える「エンターテインメント」が今後の経済発展の主役になるという「遊民経済学」を展開、その時代の先頭を走るのは日本において他は無いと熱く語るのは、日商岩井(現・双日)で主任エコノミストを務めた吉崎氏。 「天才軍師」と呼ばれた戦国武将・黒田官兵衛に心酔し、自身のブログでも「かんべえ」のハンドルネームを名乗っているほどの大ファンで、クールな分析と戦略には定評がある一方で、競馬と麻雀を愛するエコノミストというアンバランス感覚が笑えるが、斬新な切り口で日本経済の繁栄を予見している。