1. 日本語練習帳 . . . 1999 / 大野 晋 (すすむ)
学習院大学で名誉教授を務めた国語学者の大野晋によるベストセラー本。「嬉しい」と「喜ばしい」の違い、「最良の」と「最善の」の使い分け、さらには清少納言の枕草子で有名な「春はあけぼの, 夏は夜」に対して食堂での会話・「私はうどん、貴方はタヌキそば」が意味する根本的な違いなど、言葉を敏感に捉える練習から始まって、文章の組立てや展開・そして敬語の基本など、練習問題に答えながら日本語を「トレーニング」出来るように作られた、まさに練習帳【Drill】と呼ぶべき本。日本語の奥深さや面白さを楽しみながら文章が上達するように工夫されており、日本語・外国語に関わらず文学や語学を志す人ならば是非とも読んでおきたい本。
2. 日本語教室 . . . 2011 / 井上 ひさし
山形県出身の小説家で、NHKテレビの人形劇『ひょっこりひょうたん島』(1964)を始め劇作家としても長く活躍した井上ひさし氏が、母校の上智大学で行った日本語に関する講演をまとめた一冊。古来から日本固有の「大和言葉」、中国から伝わった「漢語」、カタカナで表記される「外来語」の3つを無意識的に織り交ぜる日本語を「日本精神そのもの」と絶賛し、言葉のグローバリゼーション(世界化) が日本に与える悪影響を懸念する。西洋の文化を積極的に取り入れた明治の時代に、スピーチを「演説」、フリーダムを「自由」、エコノミーを「経済」と訳して日本に定着させた福澤諭吉のセンス(←感覚 ?)に感服する一方で、その素晴らしい日本語の劣化が近年著しいと嘆いている。日本の化粧品メーカーのFANCLが「ファンケル」と読ませる現状を「横暴」と言い切って日本語の危機を覚える感性は、次項で紹介する言語学者の井上史雄や鈴木孝夫に通じるものがある。
3. 日本語は生き残れるか . . . 2001 / 井上 史雄
世界の言語は全て平等ではなく、実はそこに「格差」が存在するという観点で言語学と経済学の接点を探る「経済言語学」という新たな分野を開拓し、日本語の価値やその将来性を論ずるのは方言学や社会言語学を専門とする言語学者の井上センセイ。地球の大部分で通用する「世界語」である英語が、TVや映画・そしてネットなどのメディアを通して日本国内に浸透することで日本語を脅かしている状況で、アメリカを頂点とする「英語帝国主義」に飲み込まれない為には日本語の地位を向上させて生き残りを図るしかないという、エッジの立った言語論。 日本語の市場価値や難易度を他国語と比較し、日本語の経済的な強さとその「国際化」について考察した数少ない本。
4. 日本語教のすすめ . . . 2009 / 鈴木 孝夫
文学部と医学部を卒業した上で、経済学や地球環境にも精通してバランスの良い主張が人気の慶応大・名誉教授の鈴木センセイの本。世界中に広がる英語が幅を利かす「英語帝国主義」のもたらす問題点を批判し、極東の一島国だけで話されている日本語を「世界に誇る大言語」と絶賛し、その素晴らしさを解説する。日本で7色とされている虹は英米では6色・ドイツでは5色という「文化と言語」の関係を示したエピソードや、漢字に音訓の両読みがある理由、自らが「日本語教」なる新興宗教(?)を立ち上げた背景など、楽しく読める「鈴木ワールド」入門書とも呼ぶべき本。
5. 「汚い」日本語講座 . . . 2008 / 金田一 秀穂
「アホ・ボケ・カス!」「クソバカ!」のような暴言や、「ググれ!」「腐女子」「マジキチ」のようなネットスラングなどの乱れた日本語を論(あげつら)って批判する本ではない。部屋が汚い・言葉が汚い・金に汚い...など、「汚い」という1つの単語をキーワードに展開した言語論・文化論であり、より適切なタイトルを付けるならば『「汚い」という日本語』といった感じか。日本で初めての小型国語辞典である『三省堂・明解国語辞典』(1943)を監修した言語学者の金田一京助を祖父に、その一人息子でやはり言語学者の金田一春彦を父に持つ一穂氏は、上智大の心理学科を卒業後ニート生活を送っていたが、ふと一念発起して東京外大の大学院で日本語学を学び直して言語学者になったというユニークな経歴で、その「ゆるふわ」な感じがテレビのクイズ番組『Qさま!!』などで人気である。「日本には美学はあるが哲学がない」と訴える一穂氏は、日本の倫理観は美学の下に成り立っており、美しくないもの=即ち「汚い」ものを常に考え続けたのが日本文化の源泉であるとしている。
6. ひっかかる日本語 . . . 2012 / 梶原しげる
著者の名は【かじはら】ではなく【かじわら】サンである。読者はもうこの時点で引っかかっている。元アナウンサーで、話す・聞くが仕事の「しゃべりのプロ」が、世の中に蔓延している珍妙な日本語に異を唱える。コンビニのトイレによくある張り紙:「いつもキレイに使って頂き...」の文言に対して、「近未来を先取りして無理やり過去の出来事に変換し、さらに感謝までする強引なコピー」と容赦ないツッコミを入れながら、巷にあふれる「ひっかかる日本語」をばんばん斬りまくる。そういう本かと思えば、機内アナウンスの絶妙な気配りや敏腕インタビュアーの裏ワザなど、高度なレベルの日本語表現やコミュニケーション技術も紹介しており、ビジネス書としても楽しく読める。もしかして引っかかったのは、タイトルで即買いしてしまった読者なのかも?
7. 日本語のレトリック 〜 文章表現の技法 . . . 2002 / 瀬戸 賢一
レトリック【Rhetoric】は日本語に訳すと「修辞法」となって何だか良く分からないが、簡単に言うと「言い回しの工夫によって相手の感情に訴えかける手法」のことで、少し粋な言い方をするならば「ことばの彩(あや)」となる。英語学を専門とする一方で、母語の日本語にも目を向けてメタファー【Metapher = 隠喩】 などの修辞技法にも造詣の深い言語学者が、夏目漱石や五木寛之、さらには井上ひさしの書いた文章を引用しながら、レトリックの魅力を解説する。「一日千秋の思い」のような誇張法、「うまいねぇ、このコーヒー」に見られる倒置法、「母なる大地」という擬人法、そして「場合が場合」のような反復法など、30種にも及ぶ技法を紹介し、表現力の育成を応援する。
8. 日本語という外国語 . . . 2009 / 荒川 洋平
世界の言語の中で、母国語としてネイティブが話す人口が最も多いのは中国語で2位が英語、3位がヒンディー語(インド)。そして我らが日本語はと言えば何と世界の第9位 ! 日本以外でもアメリカやブラジル・ハワイやグアムなどで「母国語」として話されている、とってもメジャーな言語なのである。その日本語を外国人の立場から「外国語」として客観的にとらえ、外国人になったつもりで習うことを試みたのは、東京外国語大で留学生に日本語を教える言語学者の荒川氏。ひらがな・カタカナ・漢字交じり表記などが複雑に絡み合い、世界でも特殊な言語だと(日本人には)思われている日本語を見直し、その意外な魅力や学び方について改めて考察した興味深い内容で、日本語・国語の先生方にもおススメの一冊。
9. 漢字とカタカナとひらがな . . . 2017 / 今野 真二
「漢字・カタカナ・ひらがな」という3種類の文字から成り、それらを書き手が自由に組み合わせて表現する日本語には「正書法」がないと言われている。5世紀に中国から伝わった漢字をベースに「ひらがな」と「カタカナ」が生まれ、それらが組み合わさって趣きのある表現力豊かな書き言葉となった日本語は、世界に類を見ない優雅で美しい言語と言えよう。本書はその日本語における文字の生い立ち・歴史を考察したもので、言語学を学ぶ人のみならず全ての日本人にとって大変に興味深い内容。
10. カネを積まれても使いたくない日本語 . . . 2013 / 内館牧子
秋田県出身で、三菱重工のOLから脚本家・作家へと転身を遂げた内館氏。女性としてただ1人、大相撲の横審委員を10年も務め、歯に衣着せぬ物言いで力士たちを叱りまくり、やんちゃ横綱・朝青龍の天敵とも称された先生が、近ごろ目に余る日本語の乱れを斬りまくる。「マジ」・「ヤバイ」「ぶっちゃけ」などの若者言葉から「〜してみたいと思います」・「よろしかったでしょうか?」のような新語、さらには政治家たちによる意味のない「遺憾の意」・「重く受け止める」などなど、手当たり次第に噛み付く様子はまさに「日本語愛」そのもの。