1. 新潮社 〜 新潮新書
1896年(明治29)の創業というから、実に120年以上の歴史を持つ新潮社。今でも売れている雑誌『週刊新潮』や、多くのファンに惜しまれながら2001年に休刊となった写真週刊紙『FOCUS』で広く一般に知られているが、何といっても有名なのが出版部の名物部長・中瀬ゆかり親方。毒舌コメンテーターとして活躍し、ユーモアのセンスも抜群な親方は、親友の西原理恵子(無頼派漫画家)・岩井志麻子(エロホラー作家)の3人で「熟女キャッツアイ」というユニットを結成し、各方面から喧嘩と顰蹙(ヒンシュク)を買っている。
同社の刊行する「新潮新書」は2003年の創刊で、キャッチコピーは「現代を知りたい大人のために 700円で充実の2時間」。稼ぎ頭だったFOCUSが休刊となり、新たな飯のタネが求められていた時に運良く「新書ブーム」が到来、それに上手く乗っかった形で成功したという、まさに「世渡り上手のお手本」。ベストセラーは『バカの壁』(養老孟司)・『国家の品格』(藤原正彦)・ 『人は見た目が9割』(竹内一郎)など。
2. 文藝春秋 〜 文春新書
戯曲「父帰る」で有名な作家の菊池寛が、関東大震災の起こった1923年に創業した出版社。新人作家に与えられる「芥川賞」と「直木賞」を設立した事でも有名なのだが、芥川賞が芥川龍之介から来ているのに対し、直木賞が直木三十五という作家から来ているという事や、その直木さんの作品とやらを誰も知らないのが笑える。同社の発行する雑誌「週刊文春」は前項の「週刊新潮」とライバル関係にあるが、政治家の汚職・芸能人の不倫などのスキャンダルを狙い撃ち、その人生を狂わせる「文春砲」の恐ろしい破壊力は他の追随を許さない。
「文春新書」は1998年の創刊で、キャッチコピーは「今こそ、自分で、考える」。人気ワイドショーの「TVタックル」で、ビートたけしや大竹まことに容赦ないツッコミを入れる阿川佐和子さんが書いた『聞く力』は160万部を超えるベストセラーとなった。他には『美しい国へ』(安倍晋三)・『日本人の誇り』(藤原正彦)など。
3. PHP研究所 〜 PHP新書/PHPビジネス新書
松下電器(現・パナソニック)を一代で築き上げた「経営の神様」・松下幸之助が、終戦後の1946年に倫理教育を目的として創設した出版社。PHPとは“Peace and Happiness through Prosperity” (繁栄による平和と幸福)という意味で、「モノと心」の両面における繁栄を通して国家の平和と幸福を願うというもの。1979年に開かれた政治塾の松下政経塾とは姉妹関係にある。月刊誌「PHP」に幸之助氏が書いたエッセイをまとめた著書・『道をひらく』は半世紀も売れ続ける超ロングセラーであり、日本の歴代ベストセラーでは黒柳徹子の『窓際のトットちゃん』に次ぐ第2位。「PHP新書」はPHP研究所が50周年を迎えた1996年の創刊以来、日本を応援し続ける分かりやすい主義主張で保守派の共感を呼んでいる。特に「ビジネスマンが読んで役に立つものを」という思いは、裏ネタ好きの文春新書とは対照的。ただ、ベストセラーとなった『女性の品格』(坂東真理子)のタイトルはどうも新潮の『国家の品格』をパクったようで、その品格にはちょっと疑問が残るかも。他には『頭がいい人、悪い人の話し方』(樋口裕一)・『1分で大切なことを伝える技術』(齋藤孝)・『日本を創った12人』(堺屋太一)など。
4. 中央公論新社 〜 中公新書/中公新書ラクレ
明治中期の1887年、京都の浄土真宗・西本願寺に集まった学生たちが「青年の生き方」と「禁酒」をテーマに組織した「反省会」(←何のこっちゃ)というグループが創刊した『反省会雑誌』がその起源。1910〜20年代に起こった政治・社会・文化など各方面における自由主義的な運動、いわゆる「大正デモクラシー」の波に乗り、同誌の流れを引き継いだ『中央公論』と女性誌の『婦人公論』を創刊する。戦後は政治・経済・文化についての評論や小説などを掲載する総合雑誌として販売を伸ばしたが、1999年に経営危機を迎え、読売新聞がその救済に乗り出す。再建後は社名を「中央公論新社」と改めて、今では読売新聞グループの一員となっている。
中公新書は1962年の創刊。他の新書と比べて学術書としての性格が強く、特に世界各国の歴史を語った『物語 〇〇の歴史』シリーズ(〇〇には国名が入る)は秀逸である。ミリオンセラーの『「超」整理法』(野口 悠紀雄)の他にも『ゾウの時間 ネズミの時間』(本川達雄)・『応仁の乱』(呉座勇一)など豊富なラインナップを擁し、自然科学系でもヒットを飛ばし続けている。サブレーベルは2001年創刊の「中公新書ラクレ」。ラクレ(La Clef) とはフランス語で「鍵」の意味で、キャッチコピーは「知を導く鍵はここに !」。メインの中公新書と比べ、ちょっと軽めの姉妹本である。
5. 角川書店 〜 角川新書
戦後間もない1945年11月、国文学者の角川源義(げんよし)が開いた角川書店は、創設5年目の1949年に岩波・新潮に次ぐ第三の文庫として「角川文庫」を創刊、『源氏物語』など日本の古典や外国文学、そして夏目漱石や森鴎外などの近代文学を揃えた「文芸路線」を掲げて好評を博す。1971年に企画した「横溝正史シリーズ」がブームとなり、これを仕掛けた源義の長男の角川春樹が二代目社長に就任すると1976年には初の映画『犬神家の一族』を公開する。さらには翌年の『人間の証明』、1978年の『野性の証明』、1979年の『戦国自衛隊』とヒット作品を連発。映画と小説をセットで売るという画期的な手法で「大衆エンタメ路線」へと大きく経営方針を転換するが、若い読者に人気を得る一方で昔からのファンはその手法を疑問視するようになった。春樹は実弟の歴彦(つぐひこ)との確執により社内で勢力争いを展開し、バトルの末に歴彦を社外に追放するが、1993年のコカイン密輸事件で自身が失脚すると、角川に返り咲いた歴彦が三代目社長に就任。先を見通した経営でネットとの融合路線を強力に押し進め、新体制の下で角川書店は再び活気を取り戻していく。雑誌『関西ウォーカー』創刊号が脅威的な売上げを記録、映画部門でも『失楽園』や『リング』などの大ヒット作が生まれた。
その角川書店は文庫とほぼ同時期の1950年から新書を出しているのだが、つい最近まではレーベルが「角川SSC新書」「角川oneテーマ21」、さらには「メディアファクトリー新書」「アスキー新書」など多岐に渡ってややこしくなっていたため、2015年2月からはすべて「角川新書」に一本化した。池上彰『知らないと恥をかく世界の大問題』シリーズは2009年から続いているロングセラーで、どこから読んでも分かりやすくて面白い。他には、人とお金が集まるキャッチコピーの法則を紹介した『1行バカ売れ』(川上徹也)・お笑いタレントで映画監督でもあるビートたけしが独自の目線で語った『日本人改造論』など。
6. 岩波書店 〜 岩波新書/岩波ジュニア新書
1913年に実業家の岩波茂雄が開いた岩波書店は、数多くの学術書を出版することで古典や研究の成果を広く世に知らしめ、日本国民への文化普及に大きな影響を与えた。第二次大戦で日本が終戦を迎えると、岩波は「戦争を防げなかったのは国の文化力が脆弱だったからだ」との反省のもと、国民に良質の文化を届けようと数多くの書物を出版する。中でも日本最大級の25万語を収録する『広辞苑』は国語辞典の代名詞となっている。
「岩波新書」は1938年の創刊。新聞や雑誌などへの掲載を経ずに直接本に出版した書き下ろしのノンフィクションを、お手軽価格で提供した「新書」と呼ばれる出版形態のパイオニアである。創刊の年に出版された『人生論』(武者小路実篤)や、1959年の『数学入門〈上・下〉』(遠山啓)など、今でも読まれている超ロングセラーや、『大往生』(永六輔)・『日本語練習帳』(大野晋)など数多くのベストセラーを擁する。 岩波新書の姉妹レーベルとして1979年に発足した「岩波ジュニア新書」は中高生を対象とした分かりやすいタイトルの本が多く、『社会の真実の見つけかた』(堤美果)・『正しいパンツのたたみ方 〜 新しい家庭科勉強法』(南野忠晴)などが人気である。
7. 講談社 〜 講談社現代新書/講談社+α新書/ブルーバックス
巨人びいきの「スポーツ報知」の出版元という事で阪神ファンからは目の敵にされている読売系の報知新聞社だが、その社長であった野間清治が1911年に創業したのが講談社。元々は「大日本雄弁会」として発足したのだが、口承という形で語られる講談や演説を好んだ野間が、これを文字に変えて出版するという当時としては新しいアイデアで販売を伸ばし、社名も「講談社」と改めた。1925年に創刊した大衆向けの娯楽雑誌『キング』が日本史上初めて発行部数100万部を突破、「雑誌王」との異名で昭和初期の出版会を牽引した創業者の想いは1世紀を経た今でもその一族に引き継がれている。(ちなみに『少年マガジン』『少年サンデー』に続いて1963年に出版された漫画誌の『少年キング』とは全く関係ない)
しかし今の一般市民、特にオヤジ達には何と言ってもタブロイド版の夕刊紙・『日刊ゲンダイ』だ。産経新聞が出している「オレンジ色のニクい奴」・夕刊フジの対抗馬として1975年に創刊され、芸能人の極秘熱愛や政治家のスキャンダルなど、信憑性よりもインパクトを狙う手法で人気だが、「カッパ発見」や「人面魚復活」などの見出しで圧倒的なキワモノ系の『東京スポーツ』ほどの華やかさ(?)はなく、いまいち中途半端な印象は拭えない。
新書レーベルは「講談社現代新書」の他に、わざわざ「講談社+α新書」というのを出しているのだが、自然科学の傑作を揃え、科学の世界を分り易く解説した「ブルーバックス」の方が広く知られている。本サイトで取り上げているのは『英語の語源』(渡部昇一)・『「病院」がトヨタを超える日』(北原茂実)・『生物と無生物のあいだ』(福岡伸一)など。
8. 光文社 〜 光文社新書
心理学者の多湖輝(たご・あきら)氏による『頭の体操』シリーズや、盛田昭夫・石原慎太郎の共著による『「No(ノー)」と言える日本』などのベストセラーで知られる「カッパの本」でお馴染みの光文社は、終戦直後の1945年に講談社の子会社として設立された。1954年創刊の「カッパブックス」は、「いかなる圧迫にも屈しない。自由闊達に活動する」というコンセプトを明確に打ち出し、批判や中傷も「屁の河童」との意味で名付けたもので、次々と生み出すヒット作は当時の新書ブームの牽引役となった。しかし1980年代後半頃から、文庫ブームのあおりを受けて売れ行きが落ち始めたのを機に、『女性自身』など一連の雑誌に主力をシフト。その後は新たに創刊された「光文社新書」と入れ替わる形で、新刊の発行を終了することになる。
1958年創刊の『女性自身』は職場で働く女性の呼び名「OL=オフィスレディ」という言葉を生み出し、1975年にはその別冊として『JJ=ジェイジェイ(女性自身)』を創刊、素人の女子大生をモデルに起用して、コンサバ系お姉さまのバイブルとなった。また男性向けには1981年に『週刊宝石』、1986年には写真週刊誌『FLASH』が創刊されて大人気となる。
光文社新書は「カッパブックス」出身の3人によって2001年に創刊され、キャッチコピーは「知は、現場にある」。ヒット作品は『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』(山田真哉)・『下流社会/新たな階層集団の出現』(三浦展)・『若者はなぜ3年で辞めるのか? 〜年功序列が奪う日本の未来』(城繁幸)などなど。
9. 集英社 〜 集英社新書
大正時代に創業された総合出版社の「小学館」から娯楽雑誌部門が分離して、昭和元年(1926)に新たに設立されたのが集英社。創刊から半世紀も売れ続けている『週刊プレイボーイ』(1966〜)や『週刊少年ジャンプ』(1968〜)などの超ロングセラーを擁する同社は、講談社や小学館と並んで出版業界の売上トップグループを構成しており、多様化する日本人の生活スタイルやファッションに向けてジャンルを拡大し続けている。
集英社新書は1999年の創刊で、キャッチコピーは「知の水先案内人」。表紙カバーには水の上を船で進む人物のイラストに “A pilot of wisdom”という文言が書かれている。同レーベルで面白いのは「21世紀研究会」による『世界地図』シリーズ。『食の世界地図』・『法律の世界地図』・『常識の世界地図』など一連のシリーズ本は、単にテーマごとの世界地図を表したものではなく、ユニークな目線から世界のつながりを解き明かすというもの。当サイトで紹介しているのは他にも『不幸な国の幸福論』(加賀乙彦)・『それでも僕は前を向く』(大橋巨泉)など。
10. まだまだあるよ出版社 & 名著の数々
< 幻冬舎 >
角川書店の発展に貢献し、カリスマ編集者と呼ばれた見城徹が1993年に設立した出版社。角川でずっとタッグを組んできた二代目・春樹社長に退任を迫った経緯から(春樹氏がコカイン事件で逮捕される)、「自分も角川には居られない」と部下5人を連れて辞職して立ち上げたのが現在の幻冬舎である。設立以降、毎年のようにベストセラーを生み出し、今では小学館や講談社とも肩を並べるほどの存在になっているが、同社の名前が一般に広く知られるようになったのは、何と言っても1998年に出版した『ダディ』(郷ひろみ)だろう。松田聖子との破局後の会見で「生まれ変わったら一緒になろうね」とか何とか言いながら、六本木のディスコで声をかけナンパした二谷友里恵と1987年に再婚、娘2人に恵まれるも11年後の1998年にまた破局したのだが、離婚の発表と同時に告白本を出版するという前代未聞の宣伝効果によってミリオンセラーとなった。内容と言えばもうガチで醜い痴話喧嘩で、「郷のナルシーな告白と、鬼嫁リーの凄まじい執念」が読ませどころか。
幻冬舎新書は2006年に刊行され、『宇宙は何でできているのか』(村山斉)は中央公論新社が主催する2011年の新書大賞に選ばれた。他には『偽善エコロジー〜「環境生活」が地球を破壊する』(武田邦彦)・『日本を貶めた10人の売国政治家』(小林よしのり編)など。 姉妹レーベルとして幻冬舎新書ゴールド(GSG)というのがあるが、幻冬舎新書(GS)と分けている理由が謎である。
< ちくま書房 >
1940年に創業者の生まれ故郷である長野県東筑摩郡(現・塩尻市)にちなんで設立&命名された筑摩書房。『太宰治全集』や『宮沢賢治全集』・『井伏鱒二全集』、さらには『世界文学全集』とか『明治文学全集』などの全集モノで人気を博す。しかし創業者・古田晁(あきら)による放漫経営と、「損をしてもいいから良い本を出そう」という創業精神が仇(あだ)となり、1978年7月12日に倒産。 シュールな前衛漫画家として知られる『つげ義春全集』を出版した矢先の事だったのだが、奇しくも出版の翌日に会社更生法によって経営破綻してしまったのは何ともシュールと言える。
同社再建後の1994年に創刊された「ちくま新書」は一般教養派というカテゴリーで、岩波新書のような感じでもある。『哲学入門』・『戦後入門』・『神道入門』・『高校生のための経済学入門』など、○○入門というのが多く、学術書のようなお堅いイメージではあるが、世相に合ったテーマの指南本が数多い。ベストセラーは『学問のすすめ 現代語訳』(齋藤孝/訳)・『3年で辞めた若者はどこへ行ったのか?』(城繁幸)・『これから世界はどうなるか』(孫崎享)など。2005年に創刊された姉妹レーベル・「ちくまプリマ―新書」は、Primer というネーミング通りの入門書。「身近な悩みに答える、さいしょの新書」というコンセプトでヤングアダルトに人気である。
< KKベストセラーズ >
明治中期に創設され、主に教科書や学習参考書を販売していた河出(かわで)書房が戦後の1947年に再建した「河出書房新社」の流れを汲む出版社で創立は1967年。「ベンチがアホやから野球できへん!」との名セリフで阪神を退団した江本孟紀が球界のウラ話を暴露した『プロ野球を10倍楽しく見る方法』(1982)をヒットさせた「ワニブックス」と兄弟のような関係で、同社のイメージキャラクターもあのユーモラスなワニさんである。
新書のレーベル・「ベスト新書」は2001年の創刊。歴史や法律・社会学・ビジネス・教育、さらにはサイエンスなど多岐に渡るラインナップを擁し、肩の凝らない大衆向けのお手軽教書として人気である。教育会のご意見番・尾木ママこと尾木直樹の『教育破綻が日本を滅ぼす!』・ホリエモンこと堀江貴文の『99%の会社はいらない』など、テレビでお馴染みの有名人による書も多いが、そのホリエモンとかつて一緒に働いた経験もある実業家の小飼弾(こがい・だん)が新書の魅力を存分に紹介した『新書がベスト』が笑える。蔵書数3万冊を超える読書家でもある小飼氏なのだが、この本を「ベスト新書」から出すという茶目っ気ぶりからして面白い。
< 青春出版社 >
『後悔しない生き方』・『20代で1億円貯める方法』・『ボディランゲージから読む女心』...80年代の悩み多き若者に「生き方・稼ぎ方・モテ方」を熱く語り続けた雑誌『BIGtomorrow(ビッグトゥモロウ)』で有名な青春出版社だが、同雑誌は2017年に惜しくも休刊となった。ていうか、よくもまあ似たような内容で38年も続いたのが不思議。一方で、1967年に創刊された『試験に出る英単語』(森一郎)は今でも売れ続けている超々ロングセラー。ちなみに本書のニックネームだが、関東では『でる単』、関西では『しけ単』である。
同社の新書レーベルは「青春新書」、コンセプトは「すべての人に学ぶ機会を、知る喜びを」。前述の『BIGtomorrow』のように「スゴ本」なのか「ビックリ本」なのか良く分からないのが混在しており、『騙されるニッポン』(ベンジャミン・フルフォード)や『地下経済〜この国を動かしている本当のカネの流れ』(宮崎学)など、ちょっと覗いてみたい世界に溢れている。サブレーベルには「青春新書プレイブックス」と「青春新書インテリジェンス」があり、前者は「人生を自由自在に活動(プレイ)する」、後者は「こころ涌き立つ『知』の冒険」がキャッチフレーズ。何とも楽しそうな響きではないか。
< 小学館 >
集英社から分離・独立して1922年(大正11)に創業された小学館は、現在ではその集英社、そして講談社と並んで日本の「出版社御三家」と呼ばれている。90年以上の歴史を誇る学習雑誌・『小学一年生』やマンガ『美味しんぼ』で有名な『ビッグコミックスピリッツ』の他にも『週刊少年サンデー』・『女性セブン』・『CanCam』、そして反日勢力を叩きまくる『SAPIO』など強力なコンテンツを誇っているが、新書に関しては2008年の創刊であり、かなりの後発組である。初のレーベルは「101新書シリーズ」と命名されたが、5年後の2013年に「小学館新書」に改名。2016年にはお笑いの吉本興業とのコラボによる「小学館よしもと新書」をスタートし、「趣味」「実用」「ライフスタイル」など様々なテーマに対して、ピース又吉やレイザーラモンRGなどの芸人たちが鋭く斬り込んでいる。当サイトで紹介しているのは『低欲望社会 〜「大志なき時代」の新・国富論』(大前研一)・『記者クラブ崩壊 〜 新聞・テレビとの200日戦争』(上杉隆)など。
< 日本経済新聞出版社 >
新聞業界においては左派(リベラル)とされる朝日・毎日、そして右派(保守)とされる読売・産経の中間という立ち位置で、一応は中道的なスタンスの日経新聞が発行する「日経プレミアシリーズ」は、ビジネスに役立つ新書というコンセプト。『初歩からの世界経済』(日経新聞社)・『日本企業は何で食っていくのか』(伊丹敬之)など、テーマをコンパクトにまとめた「お役立ち本」が多い一方で『バブル入社組の憂鬱』(相原孝夫)・『あの会社はこうして潰れた』(帝国データバンク情報部)など、かなり生々しいタイトルもあって大変に興味深い。2012年からは姉妹レーベル・「日経プレミアプラス」を出版、「スマホ時代のビジネスパーソンに贈るマガジン型新書」という新たなジャンルを切り開いて人気を呼んでいる。
< 扶桑社 >
時代を切り取るビジュアル週刊誌の『SPA!』や、女性のための生活情報誌『ESSE』で知られている扶桑社はフジサンケイグループの一員。アメリカの医学博士スペンサー・ジョンソンによる童話のようなビジネス書・『チーズはどこに消えた?』の日本語訳書を2000年に出版した事でも有名なのだが、日本で唯一の皇室専門誌である『皇室』、また日本で唯一の自衛隊オフィシャルマガジン『MAMOR(マモル)』を出版していることで「右寄り」感のある出版社だ。「扶桑社新書」は2007年の創刊。『ぼくらの祖国』(青山繁晴)・『日本会議の研究』(菅野完)、さらには『偽装国家』(勝谷誠彦)・『大炎上』(高須克弥)など、強烈な個性の作者たちが「闇鍋」のように煮えたぎって、もう何が出てくるか、どっちに転ぶのか全く分からないのが楽しみなレーベルと言える。
< 詩想社 >
「本の街」と呼ばれる東京神田・神保町に戦後の1959年に設立された「日本文芸社」。その編集者であった金田一一美(かずみ)氏が独立して2014年に立ち上げたのが詩想社である。新しい出版社のため新書の数はまだ少ないが、『NHKが日本をダメにした』(武田邦彦)・『「国富」喪失』(植草一秀)・『資本主義の終焉、その先の世界』(榊原英資・水野和夫)など、日本の現状を憂うピリ辛の提言本が光る。
< 祥伝社 >
日本の大手出版社、集英社と小学館を中核とする「一ツ橋グループ」に属する従業員50人ほどの総合出版社。古くから「ノベルズ」と呼ばれる新書サイズの小説を刊行しているが、何と言っても特筆すべきは、1997年に中国系アメリカ人作家アイリス・チャンが著してベストセラーとなった『ザ・レイプ・オブ・南京』の捏造を暴いた『ザ・レイプ・オブ・南京』の研究〜中国における「情報戦」の手口と戦略/1999』の出版で絶賛を浴びた事だろう。「教養」という堅苦しい言葉を使わずに新しい考え方やモノの見方を提示した祥伝社新書には『世界が認めた「普通でない国」日本』(マーティン・ファクラー)や、『あらすじで読むシェイクスピア全作品』(河合祥一郎)など、思わず手に取ってみたくなるタイトルの本も多い。さらには手塚治虫を始めとする漫画家たちの作品をオムニバス的に収めた『まんが トキワ壮物語』などのユニークな試みも面白い。
< 平凡社 >
1914年(大正3)に創設された平凡社は多くの学術書や教養書で知られており、中でも全35巻から成る『世界大百科事典』は第一級の専門家による知の宝庫として、同社のシンボル的書物にもなっている。1963年創刊の雑誌『太陽』は日本初の本格的グラフィックマガジンで、まぁ今風に言えば「ムック」の草分け的存在だ。ムックとは“Magazine”のM と“Book”を合わせた造語で、雑誌(グラビア)と書籍(本)を混ぜたような出版物のこと。ちなみに昭和の時代にヒットした男性向けグラビア誌の『平凡パンチ』はマガジンハウス(旧・平凡出版)のもので、平凡社とは全く関係ない。
新書では1970年代に「平凡社カラー新書」というレーベルで100冊ほど出していたが、その後長らくのインターバルを経て1999年に「平凡社新書」を創刊。「自分を広げる、世界が変わる」のキャッチフレーズの通り、『戦国大名』(黒田基樹)・『ヒトラーとUFO』(篠田航一)・『ベートーヴェンの生涯』 (青木やよひ)など、興味深いタイトルが並んでいる。