新書のすゝめ  新書の魅力

1. 新書とは何ぞや ?

Paperback

新しく出たばかりの本、例えば本屋さんの店頭で【本日発売 !】とあるような新刊書も新書と呼んだりするが、当サイトで扱う「新書」とは、雑誌や単行本・文庫本などと並ぶ出版形式の1つである。文庫本より少し縦長の小型本で、標準サイズには縦173mm×横106mm、そしてちょっとスリムな縦182×横103mmの2種類があって、業界では両者ひっくるめて「新書」と呼ぶ。新書判に作ったから新書と呼ばれるのか、新書サイズだから新書判なのかは今ひとつよく分からないが、まぁそういうコト。英語圏では「文庫」や「新書」という区別は無く、まとめて「ペーパーバック(Paperback)」とか、装丁の立派なハードカバーに対してソフトカバー(Softcover)と呼ばれている。よく海外のリゾートなどで、朝からホテルのプールサイドで象海豹(ゾウアザラシ)のように寝転んだ見事な体格の、欧米系と思しき白人さんがビール片手に読んでいる、あの分厚いけれど安そうな本である。

 

さてその新書の内容は一言で言えば「ノンフィクション」、つまり小説やマンガのようなフィクション(創作もの)ではない実録・歴史・伝記・エッセイなど、事実に沿ったものが基本である。中には事実かフィクションか判断に苦しむ「トンデモ本」と呼ばれる怪しいのもあるが、これらはアマゾンの読者レビューなどで酷評されているので、役に立ちそうもないと思ったら買わない方が賢明かも。ただ覚えておきたいのは、大河小説『青春の門』の作者で、『かもめのジョナサン』の翻訳者でもあり、魅力的なエッセイを世に多く出している「元祖イケメン作家」の五木寛之氏が、「どんなに下らない本でも、どこか1ヶ所くらいは傾聴に値する部分がある」と論じているように、「ダメ本」・「バカ本」・「トンデモ本」から何かを見つけるのも一興と言える。映画とかでよく見るように、「お宝」は宝石箱ではなく、ガラクタの中にあるのがお約束なのだし。


2. 古くても「新書」

知的生活の方法

このサイトでは出版から少なくとも1〜2年以上経過して、既にブックオフとかで売られている中古の新書、言ってみれば「新古書」、いや「古新書」を集めてジャンル別に紹介しており、中には40年を超えるビンテージ物などもあったりする。しかし新書はどんだけ古くなっても「新書」なのだ。 学者やジャーナリスト・専門家や企業人など、古今東西の賢人たちが長年かけて蓄えた知恵やノウハウがお手軽に手に入るのが嬉しいのだが、何と言っても一番の魅力は「価格」だろう。通常、本屋さんで売っている新刊の新書は一冊700円前後と決して安くはない。ヤバいのになると千円近いのもあったりして、買って読んでハズした場合の損害は甚大である。でもご安心あれ、このサイトでご紹介している新書の90%は街角の中古ショップの「100円コーナー」で買ったもの。高くてもせいぜい定価の1/4から半額まで、しかもそのほとんどがアマゾンから「1円」で買えたりする(←これにはプラス257円とかの送料が掛かってしまうので、やっぱりお店で買うのがお得)。100円で知識が身に付くとはどう考えてもお買い得。デフレ時代を賢く生き抜く手法と言える。


3. 新書の歴史

History1

今から100年以上も前に東京・神田でオープンした岩波書店が1938年に創刊した「岩波新書」が始まり。日本最初の文庫本シリーズの「岩波文庫」が古典中心だったのに対して、新たに書き下ろされた一般啓蒙書という新しいジャンルという事で「新書」という名が付いたと言われている。その岩波がいわゆる「教養新書」だったのに対して、1954年に光文社から創刊されたカッパ・ブックスは「創作出版」という新たな形式で、時流に合った企画と肩の凝らない文体により「実用・娯楽新書」という新ジャンルを創出する。千葉大学の助教授だった多湖輝(たご・あきら)氏の「頭の体操」シリーズ(1966〜)などが100万部を超えるベストセラーとなった。

 


History2

1962年に中公新書、そして64年に講談社現代新書が創刊されて、岩波新書と並んだ「御三家」が出揃うと、東京オリンピックに象徴される高度経済成長によって日本全体が豊かになる中で、「教養」を求める読者層が増えていく。「衣食足りて礼節を知る」というやつだ。1970年代に「文庫本ブーム」が到来して新書の人気が下火になると、再ブレイクを狙った岩波新書が創刊50年の1988年に初代「赤版」に代わる「新赤版」をスタート。従来の堅苦しい学問的なものからエッセイなどの軽い書物にまでラインナップを広げ、さらには行間を広く取ってみたり、ひらがなを多用したりと読みやすさを重視、まさに新書の「ゆとり化」である。1994年に出版されて大ベストセラーになった永六輔の『大往生』や水木しげるの『妖怪画談』シリーズなどの傑作を擁して「ひと皮むけた」岩波は、従来の新書のイメージを覆し、新たな読者を獲得する役割を果たした。

 

このような出版業界の努力によって、再び新書ブームが巻き起こる。1994年に「ちくま新書」、96年に「PHP新書」、98年に「文春新書」が登場すると、99年には「平凡社新書」「宝島社新書」「集英社新書」などが一気に参入。さらには「岩波アクティブ新書」「中公新書ラクレ」「講談社+α新書」と、同じ出版社から複数のレーベルが出され、さながら戦国時代の様相を呈するようになる。限られた書店のスペースを群雄割拠が奪い合う様相は、業界で「棚取り物語」とも呼ばれた。(ウソです)

 

20世紀の終盤から21世紀に渡り、これほどまでに多くの新書が創刊された要因の一つにバブル崩壊以降の経済情勢がある。長引くデフレによる消費者の「安モノ志向」に対応し、多くの出版社が700〜800円と「お値段以上」の新書に走り、その「知のデフレ」に拍車をかけたのが、ブックオフなどの中古販売である。100円やそこらで豊富なジャンルの知識が学べる中古新書は、今の時代にマッチした知恵袋。じゃんじゃん読んで、不確実な時代を生き抜くための「知力」を磨きたい。


4. 新書大賞

新書大賞

読売新聞グループの出版社である中央公論新社(1999年に中央公論社から改名)が2008年から主催している賞。毎年その前年に刊行された全ての新書の中から「最高の1冊」を選ぶというもので、書店員・書評家・編集者からの反響などを点数化して選ばれる。審査結果が売上ランキングを左右するという副作用もあって、「埋もれた良書を掘り起こしたい」という当初の狙いが外れかけた事もあったが、配点の重みを変えたり、投票者のカテゴリー配分を変えたりして、試行錯誤を重ねながら第12回(2019年)まで何とかやって来れたというのが実情のよう。記念すべき第1回の大賞には生物学者の福岡伸一氏による『生物と無生物のあいだ』(講談社現代新書)が選ばれた。時事性の無いテーマを扱ったアカデミックな内容が何とも新鮮というのが受賞理由で、2011年も『宇宙は何でできているのか』(村山斉/幻冬舎新書)が大賞に。最近では、世の中のタブーのすべてを暴露して賛否両論の大反響を呼んだ2017年の『言ってはいけない』(橘玲/新潮新書)、アフリカで大発生して作物を食い荒らすバッタの駆除に奮闘した秋田出身の昆虫学者・前野ウルド浩太郎がその奮戦記を記した『バッタを倒しにアフリカへ』(2018/光文社新書)が大賞をゲットしている。


5. 読書管理

読書管理

いろんな新書を手当たり次第に読んでいると、自分が今まで「知らなかった事」や「知らなかった事さえ知らなかったコト」など新たな発見に出会う中で、各分野の専門家がバトルを交わしたり、また同じ著者の本どうしが真逆の意見を展開していたり、数多く読めば読むほど面白くなってくる。 
ただ蔵書が200冊を超えるあたりから記憶が曖昧になって、「この本、何て書いてあったっけ?」「コレまだ読んでなかった?」などの判断に苦しみ、わざわざ書店に行って同じ本をまた買ってきてしまったという事態も発生する。そりゃ買ってきた本を出版社別に並べてリストでも作ったら良いのかも知れないが、そんなヒマがあったら本の1冊でも読んでいたい。そこでそんな貴方におススメなのが巷(みなと、ではなく「ちまた」と読む)に出回っている「読書管理アプリ」。出版社やメディア・NPOや個人のブログまでが多くのアプリを提供しており、自分が読んだ本やこれから読みたい本を出版社やジャンル別に整理して、気になった時にパソコンやスマホからいつでも記録を引き出せる。また蔵書情報を元に「貴方におススメの本」を紹介してくれるサービスも。さらには同じ本に読書レビューを書いたユーザー同士が意見交換、などというお見合い要素まであったりして、もしやこれがご縁で...なんて事もあるかも知れないので、まずは試してみるのも一興かも、うすす♪


6. ネット時代を生き抜く知恵

新書がベスト

ネットの普及によってあらゆる情報がいつでも手に入るという便利な世の中になったのだが、そんな状況であればこそ、自らのアンテナを高くして「価値のある情報」を選ばなければ、ネットが垂れ流す膨大な情報に飲み込まれて身動きが取れなくなる。そんな今の時代で頼りになるのは、発信元の怪しいブログネタではなく、事実に基づいて・信頼のおける著者によって書かれ・出版社の検閲を受け・一定水準の基準をクリアして値段が付いて売られている「新書」に他ならない。もちろん中には「トンデモ本」や「ダメ本」もあるのだが、数多く読んで脳内マップを鍛えることで考え方が・さらには生き方が変わってくる。ネット時代を生き抜くには、新書こそが「ベスト」な選択と言える。